施設研究会 第28回 都市の防災を考える

Sala design Study Session SS1-28

Think of disaster prevention of the city

2020/10/23

今回のテーマは都市の防災を考えるという事で、墨田区北部の白鬚地区にある防災団地・白鬚団地と消防庁の体験施設の一つである本所防災館を訪問した。

 

白鬚団地は分譲棟の管理組合理事様にご案内頂いた。1977年竣工、設計は日建設計。敷地はカネボウ創業の地の近く、かつては町工場や木造密集地域であった地域。1kmにも渡る長大な団地は地震による火災が発生した場合、この建物自体が防火壁となることが想定されている。棟間には巨大な防火戸、各住戸のバルコニーにはドレンチャー付きの防火シャッター、そして廊下には放水銃も設置されている。さらに当時は珍しかった住戸内へのスプリンクラーも完備されている。(現在は誤動作防止のため水を抜いている)

中間階である5階の廊下は屋外階段から直接避難できるフロアとなっており、その下階の廊下の天井には上階に避難経路があることを示す赤色の塗装がされており、外観上のアクセントになっている。廊下の幅も広く、片廊下ながら避難階で2.2m、その他の階でも1.7mはあり余裕のある空間となっている。余談だが荷物の出し入れが楽なため引越業者には大変喜ばれるようだ。

 

竣工年より新耐震前の基準であるはずだが、極太のRCのフレームは東日本大震災でもほとんどクラックが見られなかったとのこと。ドレンチャー、スプリンクラー、さらに各住戸のトイレ排水の水源は、元々町工場が多かった地域柄、工業用水を採用して低コストで運用することが考えられている。そのためPSは大きい。隣接する公園は仮設の水道や仮設トイレを設けることが可能で、建物の地下に設置されている合計3,000tの上水のタンクから供給することが考えられている。当時考えられた様々なアイディア全部入りの施設となっている。

災害が発生した場合に逃げるのではなく、逃げ込める場所として具現化した事例の一つとして、その後の再開発における参考とされているようだ。近年ではその機能よりもその特異な風貌がSNSで取り上げられ、「映えする」スポットとしてある一定の認知度はあるそうだ。理事の方曰く、防災団地の事例として管理組合や都に視察依頼は多いが、この施設をマネされるとその維持費が膨大になることから都の方から見学にストップが掛かるというお話も伺った。時代も変わり都市の不燃化が進み、この団地の設計当時と我々を取り巻く環境は全く同じではないと思うが、そこから学べるものは多くあると思う。そのようなお話を伺い都の姿勢にはなんとも複雑な気持ちになった。

築40年近くたって分譲されている棟については住民の入れ替わりはあまりないようだ。定期的に防災訓練を行ったり屋上の防水など自分たちで出来る改修はやるという、建物として古さは感じるものの整備されている。住人が誇りと愛着をもって住まわれているのが印象的だった。

 

変わって本所防災館は、消防庁が設置している防災啓発施設で無料で開放されている施設。都内に3ヶ所ある施設のうちの一つ。

こちらは体験ツアーがあり、防災啓発ムービー、都市水害体験、地震体験、消火体験、火災の際の煙からの避難体験に参加した。施設自体は基本的に小学生の社会科見学でも対応できる内容となっているが、大人の私達にとっても日々の生活で忘れがちなことを思い出させてくれる施設であった。意外であったのが、いくつかの日本語学校もこの施設の体験ツアーを授業として取り入れているとのことで、言語も中国語、韓国語、ベトナム語に対応していた。

今回は東京スカイツリー180m地点にある防災デッキの見学も予定していたが、コロナの影響で視察受入れが再開されなかったことから、こちらについては別の機会に視察としたい。イースト東京エリアの防災施設について新しいものも見ておきたいと思う。

都市と建築の設計に携わるものとして、過去の歴史から先行事例とその現在を学び、ハードで解決できること、人的サポートで解決出来ること、様々な事例を吸収し自分達の設計に活かしたいと感じた。

 

 

*Sala design Facebookページに掲載内容を再編集して掲載しています 

作成:中丸 隆司