18回 進化するイースト東京

2011/12/15

 

 東京の隅田川から日本橋にかけるエリアの話題となっている施設を訪問した。20125月にオープンする東京スカイツリーの効果もあり、数年前からメディアで取り上げられることが増えている。古くは浅草という経済・娯楽の中心があり、下町の問屋街であったこの地域は、高度成長期に物流の拠点として盛況を極めたが、新宿、渋谷などが副都心と呼ばれる様になってから、長らく活気を失っていた様に見受けられた。東京の西側の開発が一段落した現在、新しい活動の場となっているこのエリアの施設を運営している方々に施設のご案内とお話しを伺った。

-Mirror

 隅田川沿いの倉庫を改修したカフェ・イベントスペース。20115月にオープン、ファサードデザインに永山祐子氏を起用しており、隅田川の古いオフィスや倉庫が並ぶ場所に突如と現れるカラフルな建物である。運営は株式会社バルニバーニで、関西に飲食店を多数展開している企業であり、大阪南船場エリアでも同様の事業展開を行っている。内装デザインや施工も自社のスタッフで行っている。カフェは最下階から3層分使用しており、3階では隅田川を望むことができる。元々倉庫として使用されていた建物なので、カフェとして眺望を保つため窓(開口部)を増設している。4階は会員制のカフェと5階以降はイベントスペースとオフィスとして利用しており、イベントスペースは、ファブリックを扱う企業とタイアップしてファッションショーを行ったり、アーティストのレセプションに使用されたり、現在のこのエリアに集積している業種からの利用が良くあるそうだ。屋上見学時は一般公開していないとの事であったが、将来はデッキスペーストして一般利用も考えているとのことだった。建物全体を通して感じたのは、飲食としては、魅力あるメニュー展開を行うこと、地域の魅力をうまく活かした定期的なイベント運営が鍵になると思われる。

-2K540

秋葉原から御徒町の高架下遊休地を活用したものづくりをテーマとした施設。運営主体はJR100%子会社、ジェイアール東日本都市開発。かつて、御徒町周辺が伝統工芸職人が集まっており、現在もそうした店舗がある中で、時代とともに変化する人々の感性やセンスにそった商品を製作、販売する場所として“2k540 AKI-OKA ARTISAN”と名付け、201012月に第一期32店舗オープン、現在第二期もオープンし、合計約50店舗が展開している。

運営側としては、商圏人口に乏しいエリアでいかに集客するかを考え、ショップの店長会議などを密に行っている。また海外に向けてのアピールも積極的に行っているとのこと。オープン前より、地元の創業支援をしている台東デザイナーズビレッジとの協働し、このビレッジの出身者の数名がここで事業展開している。 

 

-TARO NASU Gallery

イースト東京というフレーズを思い浮かべるとき、やはりギャラリーの存在は外せないということで、最後に馬喰町にあるTARO NASU Galleryを訪問した。江東区、港区と場所を変え20085月現在値に移転、改修設計は建築家の青木淳氏であることから、単純に空間のみを見に来る人もかなりの数になるそうだ。

他のギャラリーと同様に契約作家のマネージメントと展覧会の実施をおこなっている。馬喰町はギャラリーが多いこともあり、地域全体のギャラリーや飲食店のマップも準備されているなど、ここ数年の“イースト東京”ブームをうかがわせるところもあったが、ご担当の方曰く、スカイツリーが来年オープンという事でイースト東京というエリアは認知できたということで、地域全体の大々的なキャンペーンは今年で終了とのことであった。

内装はホワイトキューブ、階段手摺の意匠は極限までシンプルに仕上げてある。絵画購入の際に使用される打合せ室などは、古いRC造のスケルトンに塗装とガラスで囲まれた空間で、当初は声が響いてしまうことが問題になったそうだ。現在は青木氏がオリジナルで考案したユニークな吸音ユニットが天井に設置されている。また後に1階入口脇のショーウィンドーに見立てたギャラリーをワンダーウォールの片山氏が手掛けているが、こちらも片山氏らしいサプライズのある面白いスペースとなっている。

 

このようにイースト東京と呼ばれるこのエリアは、産業遺産といえる建物をリノベーションし新たな発想で価値の再生を図っている事例が数多くある。今回訪問した施設はその一部であるが、そうした元々何かに使われていた独特の空間を、古きよき時代の雰囲気を残しながら時代に合わせ活用して行くことが、魅力あるスペースを創出し、都市のストックの有効活用につながる。このイースト東京と呼ばれるエリアが、世界から注目されるようなリノベーションのお手本となることを期待したい。

 

作成:中丸 隆司