施設研究会 第13回 太陽光発電ベンチャー企業工場と内房地域の視察

2010/05/18

 今回は千葉県の房総半島の木更津市を中心とした“かずさアカデミアパーク”にあるソーラーシリコンテクノロジーとアカデミアパークの見学、木更津と千葉市に挟まれている市原市周辺を視察した。

■ソーラーシリコンテクノロジー本社見学

  “千葉にソーラーバレーを”をスローガンに京セラの元取締役が立ち上げたベンチャー企業、ソーラーシリコンテクノロジー本社工場(かずさソーラーファクトリー)を訪問した。千葉県などが主体となって進めた“かずさアカデミアパーク”の一角にある。環境負荷軽減の観点から自然エネルギーの有効利用として、以前から太陽光発電に期待が掛かっている。ただ私達設計者によくある経験として、プロジェクトスタート時はクライアント共に皆意識はするものの、最終的にはコストがかかる事で断念するケースが非常に多い。こうした現時点で採用が難しいケースが多いデバイスをクライアントに将来性を含め的確に推薦するには、現時点での太陽光発電業界の現状を知る必要があると考えた。

太陽光発電パネルは、珪砂・珪石からシリコン素材を取りだし、インゴット→ウエハ→セルとなり、それをパネル化して製品となる。ソーラーシリコンテクノロジーはこのうち、シリコン原料を独自方法で99.9999%の高純度で精製する“太陽電池用シリコン原料の開発・製造・販売”と、“太陽電池セル・モジュールからシステムの太陽電池事業”の2つの事業を行っている。今回のかずさ工場はシリコン素材、滋賀工場はパネル・モデュールを製造している。  

本社にはショールームが併設されており、太陽光パネルの製造過程やその構成素材の展示がある。残念ながら工場内は企業秘密で見学は不可であったが、外部には発電システムが設置されており、設置角度や建物屋上に設置する際のパネルが受ける風圧力について留意しなければならないポイントを教えてご説明頂いた。また太陽光発電は直流電力なので、大量に電気を使用する場合は良いが、基本的にはそこに蓄えておくことができないので、蓄えるバッテリーか売電などで必要なところに流すしかなく、そのシステムが太陽光発電を効率良く使うために重要である。

話通して感じたのは補助金が今後の太陽光発電の行く先を大きく左右することである。昨年2009年秋に開催された国連気候変動サミットで、日本におけるCo2削減25%を実現すると世界に宣言されたことは太陽光業界にとって歓迎すべき話であるが、それを実現する為には新築建物全てに太陽光を導入するレベルの普及が必要になる。実際に一般家庭用の電源を太陽光パネルでまかなおうとすると、現状では500万のシステム、つまり屋根の上に高級車1台分の費用がかかる計算になる。結果として改善されなければ、積極的に導入を行えるのは企業や公共的な施設(学校など)であり、従来通り環境配慮をアピールするツールの域を抜けない。ソーラーシリコンテクノロジーの製品が採用されているものもやはり学校関係が多いとのことである。また現在は、パネル単体ではなく建材メーカーとのコラボレーションを積極的に行っているとのこと、後日、ビックサイトで開催された太陽光関係の展示会でも屋根材メーカーの製品を見ることが出来た。

今後は、補助金や法の整備より、太陽光発電を取り巻く環境は変化していくのは確実であり、中国、台湾、韓国製などの安価なモデュールも出回ってくることで様々な選択枝がでてくると思われる。同時に現時点で選択肢の少ない製品をデザインの一部に仕方なく取り込むのではなく、こうしたメーカーとの取り組みを積極的に行い、新しいアイディアやシステムの創造につなげたい。また機会を見て、滋賀にあるモデュール工場の見学も行いたい。

 

 

 

■かずさアカデミアホール 

かずさアカデミアパークの中心施設として、ホール、コンベンション機能を備えた施設。ホテルオークラが入っているが、訪問日は特にイベントもなく平日の日中で閑散としており、レストランにおいてはランチ・バイキングで持っているような状態である。

かずさアカデミアパーク自体の事業計画もその立地から苦戦を強いられている。アクアラインによる川崎・横浜在住企業の支店開設誘致の失敗や羽田空港からの車でのアクセスがうまくアピールできておらず、かずさアカデミアパーク破綻もあり、空地となっている事業用地と存在するこれら施設を活用していく必要がある。

 

 

 

■市原市史跡 上総国分尼寺跡展示館

七重の塔があったとされる上総国分尼寺の資料館。上総という名前から、昔は房総半島のこのエリアが中心であり重要施設は市原などの一帯に存在した。今や市街地化された下総と呼ばれる地域は、その昔は湿地帯であったため、上総へは海を渡って西国との行き来をしていたという。

現在の市原市の海側一帯は、重化学工場の港湾としてコンクリートで整備されており、当時を忍ぶ姿はまったくない。

資料館は市役所の近隣にある国分寺跡地の一角にある。あまり大きな建物でないので案内は控えめにあるものの住宅地に埋もれている感じである。その展示手法や内容はごく普通のものであるが、資料館の外側には国分尼寺の跡地が広がっており、跡地の草原の中を吹き抜ける風に目を閉じれば、七重の塔がよみがえるようである。廻廊は復元され当時の塗料を再現した塗装が施されている。 

 

■五井駅周辺の区画整理地区

最後に市原市の中心である五井駅の周辺で進行する区画整理地区を見学した。大型小売店舗の誘致を考えているという事であるが、なかなか進出に踏み切る事業者は少ない様だ。

全国的に人口減少となるなか、今後は高齢者層も増加する。その高齢者も今までの生活スタイルから利便性の高い都心回帰を望み、こうした地方都市は今までと同じクリアランス型の再開発ではなく、地元の持っている要素を充分に活かした計画提案が必要であると痛感した。 

この再開発は行政も肩入れしているとの事だが、先に見学した国分寺の資料館の充実や、もっと復元に向けて予算を割くなどした方が、観光という要素で人を集めることが出来るのではないかと思った。

 

作成:中丸 隆司