施設研究会 第10回 多摩ニュータウン・UR住宅技術研究所
2008/11/28
多摩ニュータウンの「多摩センター地区」、ベルコリーヌ南大沢(集合住宅)の施設見学、及びUR都市機構の都市住宅技術研究所の見学に出向いた。まず多摩ニュータウンでは、UR都市機構を中心として計画された集合住宅であるタウンハウス鶴牧とベルコニーヌ南大沢に加えて、ニュータウン開発経緯を学ぶことのできる歴史資料館の見学を行った。また同日にUR都市機構の都市住宅技術研究所で研究開発を行っている施設と、これまでのURが手掛けてきた集合住宅の歴史を見学できる資料館の見学を行った。
■多摩ニュータウン「多摩センター地区」及びベルコリーヌ南大沢
○多摩ニュータウンの開発経緯
戦後の高度経済成長期、東京への産業、人口の一極集中が起り、その結果、東京区部では住宅難が起こり、地価も著しく上昇した。それに伴って、地価の安かった市部へ急速に宅地造成されることになった。しかし民間主導の無計画な開発は劣悪なスプロール化をもたらすことになってしまった。このような乱開発を防止するとともに居住環境の良好な宅地を大量に供給することを目的として1965年に多摩ニュータウンが計画された。
○タウンハウス鶴牧
1.専用庭
対面する専用庭間にマント空間(住戸性能を守るための空間)としての植栽ゾーンを設けている。
2.住戸の玄関まわり
2戸1階段室形アクセス形式で、階段室とは別に玄関ポーチをゆったりとっている。使い方は各戸で工夫されている。玄関ポーチには門扉は設けず、門柱と郵便箱を置いて領域感を出している。
3.道路
駐車場は住宅の外周にまとめてとられている。住宅に近づく部分には車も進入できるが、歩行者を優先した舗装やしつらえとなっている。
・車路が狭いため、車の回転が容易でない。
・敷地内に多くの緑を取り込んだ配置計画となっており、近くに公園があったりと住みやすそうな印象。
・屋根形状が多用であることから、ロフト付やメゾネットなど多用な住戸プランがイメージされる。
・敷地内にはベンチなどのコミュニティスペースがあった、そこで住民のコミュニティが成されている気配が感じられなかった。
○ベルコニーヌ南大沢
1.住戸の玄関まわり
階段室に接して光庭を設け、住戸の玄関まわりを明るくしつらえている。
2.アトリウム(吹抜け広場)、ライトコート(光庭)
住棟中央部の光庭が1階の通り抜けや階段室や住戸の玄関までも外気に接して自然で明るい空間となっている。
3.屋根
街区全体を切り妻型の屋根で構成し一部尖塔的な高層棟を交えて自然発生の山岳都市的な雰囲気を計画的につくっている。
4.壁
高層棟でタイル張りと吹付けタイルを使い分けて横線を強調し、ベイバルコニーにより壁面の凹凸を出して深みのある表情をつくっている。
5.αルーム
(住戸を母屋とすれば、「離れ」の機能を有するもの)
広域的なペデストリアン沿いにその空間にふさわしいたたずまいとなっている。
6.ペデストリアン
車の通るサービス路とは別に団地をめぐる歩行路をベンチやフラワーボックスで心地よくしつらえている。
・周囲に戸建住宅が全くないため、異質な感じがする。
・人気がなく閑散としていた。
・エアコンの室外機が露出していたり、バルコニーの手摺が縦格子だったりと、古さが感じられる。
・著名な建築家がマースターアーキテクトであることから、デコレイティブな形状の建物が目立つ。当初は目新しい建物群であったかもしれないが、年月が経過すると古さが感じられるのが否めない。長い年月が経っても古さを感じさせない計画が重要であろうと感じた。
・通りにプランターを置いたり、積極的に緑化を行っていた。
・αルーム(ハナレ)が有効的に使われているか疑問。
■ UR都市機構都市住宅技術研究所
1.KSI住宅実験棟
KSI住宅(機構型スケルトン・インフィル住宅)は、地球環境や社会構造の変化の中で、省資源、省廃棄を推進し、良質な社会ストックをかたちづくるサスティナブル(持続可能)な建物であり、一方で住まい手のライフスタイルの多様化に応えることができるしくみをもった集合住宅を実用的試行実験、研究を行っている。
実物大モデルにおける改修を行うことで、建設当初の住戸プランから時代に合わせたプランへの変更、内装設備の更新といった将来的なニーズに向けての実証、検証を行っている施設である。KSIとは機構型スケルトン・インフィルの略である。主なKSI技術としては、排水管の更新を考慮したMB、緩勾配併用KSI住宅排水方式、床下給気システム、テープケーブルが挙げられる。
2.環境共生実験ヤード
環境共生の取り組みとして、「水と緑と土」を組み合わせた総合的な環境共生技術(雨水の循環・環境緑化・リサイクル等)の開発を目的とした研究を行っている。
透水舗装は、雨水を直接地中に浸透させ雨の日でも歩きやすくするための舗装であり、保水性舗装は雨水を吸収し晴れた日に蒸発させ、気化熱により温度低減効果を実現させる。
3.地震防災館
防災館は、団地集会所を「ミニ防災拠点」とした場合を想定して造ってあり、内部には阪神・淡路大震災に関する資料や家具転倒防止策や免震部材等を展示している。 この建物は、再生骨材コンクリートを使用しており、また、世界初の「偏心ローラ支承」方式による免震構造となっている。
地震防災館は、基礎に免震装置を組み込んだ免震構法の建物である。免震構法は、免震部材を取り付けた部分で地震の揺れを吸収して、地震エネルギーが建物に伝わり難くした構法である。地震防災館には免震装置に金属製の偏心ローラー支承とオイルダンパーを用いている。
4.すまいと環境館
集合住宅の高耐久化・リフォーム・リニューアル技術や、自然との共生・省エネルギー・省資源・リサイクル技術についての研究開発を行っている。
近年、身近になった屋上緑化、壁面緑化、太陽光パネル、雨水浸透工法などの研究開発を行っている施設である。
5.居住性能館
遮音・断熱・防水・空間形状・照明などの住宅の基本性能と、健康への配慮にテーマに置いた住宅のあり方を提案する施設である。ここではモニタリング調査や見学者の見学者の意見等を集約し、今後の都市機構の住宅設計の資料とする研究も行われている。
すべての人に使いやすいというユニバーサルデザインの視点で、水廻り、居室廻りの空間構成、使い勝手の検証実験や、部品、設備の各種開発、改良の提案を行っている。
6.集合住宅歴史館
<施設概要>
日本での集合住宅のリーダーとしての立場から、 歴史的に価値の高い集合住宅を移築復元するとともに、集合住宅建設技術(工法・部材・部品・設備機器など)の歴史・変遷を展示公開する施設。
■まとめ
「タウンハウス鶴牧」、「ベルコニーヌ南大沢」といった集合住宅や、歩車分離、ペデストリアンデッキなどを取り入れた街づくりを実際に見学して、事前に調査した以上にそうした工夫が街並みに重要な役割をなしていることが体験できた。タウンハウス鶴牧のような、居住開始から20年以上が経過する建物でも、敷地内に多く植樹された風景やゆとりのある建物の配置計画など、古さを感じさせない非常に住みやすい印象を受けた。しかし一方で、多摩ニュータウンに限らず、入居者の高齢化と建築物の経年老朽化、同地域で生まれ育った若い世代の住職近接への指向などにより、住宅地としての人気が低下し、新たな価値の再生が必要であろうと感じた。今後は時代の社会的要請に対応した街づくりが求められるのではないだろうかと思う。
UR住宅技術研究所では、研究開発を行っている施設を見学できたことで、これまで理解していた知識の再確認と共に、これから普及していくことが期待される技術に触れることができた。特に晴海高層アパートや同潤会代官山アパートを始めとする移築復元された建物を実際に見学でき、机上の理論ならず「実物を知る」という重要さを再認識した研究会となった。
作成:武藤 潤平