施設研究会 第9回 高齢者施設の見学

2008/10/8

 高齢化が急速に進んでいる現代日本において、設計者として高齢者への知識と理解を深めることを目的に、民間企業が独自に経営する2社3施設へ出向いた。 施設の概要、開発の経緯はもちろんのこと、オペレーションから、介護現場での生の体験談を聞くことができた。それぞれの施設が、特色を持ちそれを望む高齢者を迎え入れる姿勢をとっていた。

■ ライフ&シニアハウス日暮里

■ 舞浜倶楽部 富士見サンヴァーロ

■ 舞浜倶楽部 新浦安フォーラム

 

■ ライフ&シニアハウス日暮里

<施設概要>

1F       ライフ&シニアハウスの共有フロア・テナント

2-3F      コレクティブハウス

4-6F      介護居室(介護が必要な高齢者の住まい)

7-11F    一般居室(自立した高齢者の住まい)

12F     一般浴場(7F~11F入居者用)

所在地    東京都荒川区東日暮里3-9-21

敷地面積   約 2,814.47㎡

延床面積   約 7,078.50㎡  ※テナント部を除く

 

<見学&ヒアリング内容>

1.開発の経緯

高齢になったため今までの生活を離れ、高齢者専用の施設で生活するのは、閉鎖的すぎるとの入居者からのニーズに答え、人の関わりを大切にした、多世代型コミュニティハウスを作ろうと、社会法人コミュをつくる会、及び、株式会社生活科学運営の協力により、入居者の望む形の施設が完成。(2003年)

 

2.グリーン計画

都心に居ながらも自然を感じることのできる “庭”をつくることで、自然とのふれあいの場を設け、地域に対しても優しい建物を作った。

3.構造計画

構造の意味での壁が精神的な壁と比例しているため、施設内は極力壁を作らない構造にした。そうすることで、将来の必要に順応することができる。

自然光を取り入れることで、都会のビル中でも明るい室内を実現させた。

 

4.内装計画

エレベーターを降りて、階を間違えないように、各フロアーごとにカーペットの色を変えている。

入居者が自由に使える防音室や、家族への宿泊部屋を用意している。(大人2名用)

各フロアー数カ所に休憩場所を設け、入居者同しや、家族が来た際に利用される。また、入居者が残した家具などを配置し、共有化している。

間仕切り扉をしまう収納がある。

好みにより部屋を広く使うことができる。

 

5.生活臭対策

高齢者施設でも一番の問題となりうることが、高齢者特有の生活臭の問題である。高齢と共に、外出の機会も減り、生活臭が施設内に貯まりやすくなる。 生活習慣からお線香を炊くことや、痴呆症により排尿の臭い等が問題となっている。 光を取り入れるための天井窓が、臭いの溜まり場となってしまい、上階の入居者から苦情がくる。

 

6.痴呆症対策

4~6Fは痴呆症高齢者が入居しており、他フロアへは、行き来出来ないように幾らかの工夫がしてある

目に優しい色のカーテン

入居者が入り込まないよう、目に優しい色のカーテンを取り付けることで、そこに壁があると思い、通りすぎる。 観葉植物などは、ちぎって食べてしまう可能性があるため置かない。(写真は造花物)

ボタン部を隠す

ボタン部を隠すことで、誤報を無くす。

色の強い物は刺激が強いため、極量避ける

黒いパネル

エレベーターボタンに黒いパネルを被せることで、 他階へ迷い混まないようにしてい

7.入居者の安全

 毎朝、入居者がロビーに来てお元気ボードにチェックする。その際、スタッフも事務所より出てきて会話の機会を持つことで、単身者や心の病気などへの気配りをしている。 各部屋ベット付近に緊急通報ペンダントが設置されており、ナースコール対応もしている。 緊急避難時、援助の必要な入居者の部屋には印がつけてある。

8.心の繋がり

 地域密着型として施設内外で様々なイベントを行っている。 他人が同居することで発生する施設内の問題にはスタッフが介入することもある。

 

9.一時介護室(2床)

 退院したばかりの高齢者や、家族が旅行に行く期間だけ泊まるショートステイも取り入れている。周辺 地域のリピーターが多く、常に予約で埋まっている。

 

10.コレクティブハウス

 コモンスペースとプライベートスペースを別け

3.入浴機器

介護を必要をしている入居者に対し、人の手に加え、最新の入浴機器を使って、入浴をする。

 

■ 舞浜倶楽部 富士見サンヴァーロ

<施設概要>

所在地       千葉県浦安市富士見3丁目16番46号

http://www.maihamaclub.co.jp/fujimi/index.html

類型          介護付き有料老人ホーム

敷地面積       約  1,653.46㎡

延床面積       約  3,297.84㎡

 

<見学&ヒアリング内容>

1.開発の経緯

 福祉で得た経験と知識を日本に提供しようと設立されたスウェーデン・クオリティ・ケア(SQC)の会員により、日本の環境や文化に合わせた福祉・介護システムを導入。最新の介護を親孝行のお手伝いとし地域密着型の施設を設立した。

 

2.設計上の問題

 設計者が福祉施設の実績がなかった為、ドアの鍵の高さや、浴室へのアクセスなど、多くの不備が生じた。 バブル崩壊の時期に設立された建物であるため、天井高が低く、全体的に圧迫感がある。廊下には、アルコーブ部を設け、車椅子がすれ違えるようにした。

3.入浴機器

介護を必要をしている入居者に対し、人の手に加え、最新の入浴機器を使って、入浴をする。

 

■ 舞浜倶楽部 新浦安フォーラム

<施設概要>

所在地       千葉県浦安市高洲1-2-1

 

 

類型・事業 地域密着型介護サービス

            ・・・認知症対応通所介護

            ・・・小規模多機能型居住介護

            居住介護支援事業所

            人材育成・実習施設

 

 

設計         有限会社 惣道(sodo)建築計画事務所

敷地面積      約 10,890.71㎡

延床面積      約   647.45㎡

 

<見学・ヒアリング内容>

1.開発の経緯

 地域の一員として、地域に密着した形で、デイケアから、入居者まで今までの生活と大差ない環境でケアを受けることの出来る場を提供したかった。 福祉先進国の人材育成のなされた高齢者サービスを日本に取り入れることを強く望み、厚労省より新しい高齢者ケアの仕組みとして提示された小規模多機能ケアシステムを導入する事、あわせてユニットケアの検証を行う「場」とする事も決定され、常に新しい方法を恐れずに実践し、高齢者にとって最も必要なケアの利用を導き出す「持続出来る場」を作ることを目的として造られた。

 

2.環境設計

 新しい街である新浦安の町並みを考慮にいれ、3層15mの高さに抑え、ケヤキを密植えするなど、地域にやさしい外観の建物を設計した。

3.空間設計

 施設ではあるが、あくまでも介護の中心は在宅にあるというとこから、通所、あるいは入居によって環境を大きく変える事は望ましいと考えた。大広場で一斉に食事をする事、集まって集団行動する事は、自然ではないと考え、空間を出来るだけ小さく、今まで生活してきた住まいの大きさから出来るだけ変わらない大きさを保った。個室に関しては、人生の最終章を25㎡で過ごすことは狭いと考え、将来的には35㎡にすることを目標としている。

4.自然素材との調和

 杉の無垢材を床に、珪藻土の壁、檜の間伐材を使用した取手など、多くの天然素材を使用し、肌触りや香りで高齢者の嗅覚や感覚を刺激し、残存する感覚を蘇らせ、認知症対策にも配慮している。浴槽には檜、壁はヒバの無垢材、床は十和田石を使い、プラスチックの椅子に座って入浴することを避けた。

5.認知症対策

 トイレの2方向の壁の色彩を変え、濃い色を使うことで、そこに便器があることを認知させる。また鏡は、移った自分が他人だと思ってしまう為、普段は和紙などを貼った蓋をつけ、必要な時に開けるというようにしている。ドアは、高齢者がかつて使ってきた日本の住宅のドアと似せることで、トイレのドアと認知させ、上下に隙間を設けることで、臭いがこもらないようにしている。 スウェーデンでは、一般の高齢者と認知症高齢者を完全にわけて介護する。そのためこの施設でも、認知症高齢者が自由に行き来できないようにドアが設置されている。

6.小規模多機能居住サービス空間

 デイケア、時間延長のナイトケアをショートステイとし、自宅の延長という雰囲気を出すため、小さめの部屋に飾りができるカウンターなどを設置した。そのまま夜は宿泊出来る安心感を与えている。

7.人材育成

 北欧で始まった少人数ユニットケアの検証の場として、最も日本人のメンタリティーに近いユニットはどのようなものかを、再確認しようと、施設内に人材を育てる場を設け、教室ではなく、現場で介護を学んでゆく方法を取り入れた。また、訪問される家族に対しても、常にケア記録や原則のありのままを見てもらうことで閉鎖性の排除をしている。

 浴室には、檜の仕切りを使うことで、昔ながらの浴槽を好む高齢者や、安全面をスタッフが感知し、サービスを行っている。

8.バリアフリー

 高齢者施設には、手摺りが取り付けられているが、ドアの前だけ切れて閉まっては意味がない、代わりに歩行器を使って自由に行き来出来る空間にしようと、手摺りは一部にしか取り付けなかった。しかし行政指導により、後日手摺りを取り付けることになった。 段差に関しては、靴を脱ぐ日本人の習慣から、そこに段差があるのが自然であると考え、あえてユニットの入り口には段差を設け、玄関の雰囲気を出した。 畳は小上がりにし、裸足で歩いて寝転がる生活を思い起こすようにした。段差をなくすと、車椅子のまま、畳に上がってしまう高齢者もいるため、不自然であると考えた。

 

作成:中丸 隆司